※本記事は、ディズニープラスにて配信中のアニメ『X-MEN '97』をまだご覧になっていない方へ向けて書かれた推薦文です。できる限り、ネタバレを含まないよう心がけています。
来たれ、X-MENの世界へ!
あなたはX-MENをご存じだろうか?
wikiには、マーベル・コミックが発行するアメリカン・コミックスに登場する架空のミュータント・スーパーヒーロー・チーム、と記載されています。しかし彼らの戦いは、必ずしも"架空"のものとは言い切れません。
X-MENが誕生したのは、公民権運動に揺れる60年代アメリカ。生まれながらに特殊な能力を持つ彼ら"ミュータント"に対し、差別と憎悪の眼差しを向ける人類社会。それでも、人類との平和的共存を諦めないX-MENと、その指導者であるプロフェッサーX。そんな彼らの前に、マグニートーが立ちはだかります。彼は、幼少期にナチスの強制収容所で家族を皆殺しにされ、成人後はミュータントとして人類から迫害を受けてきました。その経験から、より優れた種であるミュータントが人類という劣等種を支配すべきだ、との考えに至り、X-MENと敵対します。
このように現実的な差別や戦争の構造と向き合い、戦い続けてきたのがX-MENの歴史であり、その最先端に位置するのが本作『X-MEN '97』なのです。
本記事は、X-MENをよく知らないという方や、実写映画版は知ってるけど昔のアニメは知らない(僕もそうです)という方へ向けた、「マーベル史上最高のプロジェクトの一つ」(Forbes)とも称される大傑作アニメ『X-MEN '97』を楽しむための推薦文です。僕は正直、マーベル史上最高傑作だと思っています。感想ブログはこちら→『X-MEN '97』感想:普遍的で現代的で、政治的だから面白い! - 裏切りのサーモン
終わりなきX-MENの戦いの歴史。その最前線へ、共に漕ぎ出していきましょう。
『X-MEN '97』とは?
X-MENと言えば、2000年から始まった実写映画シリーズ(ヒュー・ジャックマンがウルヴァリンやってるやつ)を思い浮かべる方が多いでしょう。
(黒いレザーでお馴染み)
あるいは、かつてテレ東にて放映されていたアニメ版(音響監督の岩波さんが海外アニメに声優たちのアドリブを乗っけて遊んでるやつ)や、アーケードゲームを連想する方もおられるでしょうか。
(Shock! 嘘で固めたァ〜ナイフ切り付けェ〜)
(これはCOTA。後にストファイとコラボしたりした)
90〜00年代にかけて、X-MENブームは確かにあった、らしいです(僕はその頃、生まれていないか物心がついていないので、伝聞になります)。当時の記憶が明瞭な方々には、ここから先の解説など不要だと思いますので、サッサとディズニープラスに加入して97を観てきてほしいのですが(D社に金を落としたくない、という気持ちは大いに理解できます。僕も推しを人質に取られて苦しんでいる内の一人です)、どうせ皆さんは多忙な日々の雑務に追われて、X-MENのことなど忘れてしまっていることでしょう。仕方がないので、今から思い出させて差し上げます。
アメリカ本国では、92年から97年にかけてアニメ『X-MEN』(全76話)が放映されていて、テレ東版はその1〜43話までを(アドリブ満載で)放送していました。そして何を隠そう、このアニメ版『X-MEN』の約25年ぶりの正当続編が、本作『X-MEN '97』なのです。
(復活したX-MEN。90年代の絵柄でぬるぬる動くぞ!)
よって、旧アニメ版(全76話)を完走すれば、完璧な状態で97を楽しむことができるのですが、やはり多忙な皆さんは、そんなことできないしやらないでしょう。僕も観てません。正直、実写シリーズの内容を大体覚えていれば、それだけでも予習は充分なのですが。とにかく、解説していきます。この記事さえ読めば、あなたのX-MEN知識がゼロに等しい状態でも、問題なく97を楽しめるようになるはずです。その点は安心していただきたい。
あらすじ・登場人物解説
97年。プロフェッサーXが去り、新たな試練に直面するX-MEN。倒したはずのセンチネルの復活。マグニートーの来訪。そして形を変え襲い来る、差別と憎悪。メンバーひとりひとりの抱える苦しみ。それらが渦を巻き、チームに亀裂を生じさせ、やがて過去に類を見ない、壮絶な戦いの火蓋が切られることに……。
(番号を振ってみました)
①サイクロップス/スコット・サマーズ
「来たれ、我がX-MEN」
プロフェッサーの跡を継ぎ、X-MENのリーダーとなった。目からビーム(オプティック・ブラスト)を放つ。ジーンと結婚している。強く賢く優秀だが、やや傲慢で頑固な一面も。複数の実写映画に登場するも、あまり活躍には恵まれず。だいたいフェニックス関連でつらい目に遭っている。
②ジーン・グレイ
「人生を選べないなら何のために戦ってきたの?」
サイコキネシス(念力)とテレパシー(読心)能力を持つ。かつて、宇宙作戦時の事故で強力なパワーに目覚め、フェニックスの名で活動していたことも。現在はスコットと結婚し、子供を妊娠中。複数の実写映画に登場し、二回フェニックスになっている。
③ウルヴァリン/ローガン
「バラバラにして国連に送りつけてやる」
肉体再生能力(ヒーリング・ファクター)と、両手から飛び出すアダマンチウム(めちゃくちゃ硬い金属)の爪が特徴。いろいろつらい経験をしている人。ジーンのことを愛しているが、彼女の幸せを思って身を引いている。実写映画シリーズでは、ほとんど全ての作品で主役級の扱い。スピンオフの単独主役作も複数。今度の『デッドプール&ウルヴァリン』でも活躍の予定。
④ストーム/オロロ・マンロー
「我はストーム。自然の支配者なり」
天候を自在に操り、空を飛ぶことが可能。チームの精神的支柱。複数の実写映画に登場。
⑤ローグ
「落ち着かないと心臓発作で死ぬよ」
触れた相手の記憶や能力などを奪う。サイクロップス同様、能力の制御ができないため、普段は手袋を身につけている。ガンビットといい感じだが、以前はマグニートーと親しかった様子。複数の実写映画に登場し、記念すべき一作目『X-MEN』では物語の中心的な役割を担う。『フューチャー&パスト』にはローグ・エディションなる特別版も存在。
「君と踊れるならどんな男も喜んで手を握るさ」
触れた物質に破壊エネルギーを蓄えることが可能。キザな性格で、トランプのカードに破壊エネルギーを付与して、投げつけて攻撃することが多い。盗賊出身。ローグと相思相愛だが、彼女とマグニートーとの関係性にヤキモキしている。実写映画『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』に登場。
⑦ビースト/ハンク・マッコイ
「"ルイ、これは美しき友情の始まりだ"」
超人的な身体能力と頭脳を持つ。チームのメカやテクノロジーは、そのほとんどが彼の発明。チームの良心。名言や文学を引用して喋ることが多い。複数の実写映画に登場。最近は、とあるMCU作品のミッド・クレジットに、サプライズでカメオ出演した。
⑧ビショップ
「このバカが未来を奪おうとしたのか」
未来からやってきたミュータント。エネルギーを吸収して反射することが可能。時間を行き来するテクノロジーを有している。実写映画では『フューチャー&パスト』に登場。
⑨ジュビリー
「ただの学校じゃない。家族なの」
爆発する火花を発生させることができる。チームの最年少メンバー。任務で知り合った同年代の少年・ロベルトと親しくなる。
⑩モーフ
「サマーズの頭を切り落とすかと思ったよ」
変幻自在の変身能力を持つ。ノンバイナリー。
その他、重要なキャラクターを数名紹介。
○プロフェッサーX/チャールズ・エグゼビア
地上最強のテレパス。ミュータントの教育施設「恵まれし子らの学園」を創設し、X-MENを指揮した。現在は一線を退いている。だいたいのことは彼のおかげだし、同時にだいたいのことは彼のせいである。マーベル名物"困ったおじさん"の代表格。複数の実写映画に登場。MCUにも出た。
○マグニートー/エリック・マグナス・レーンシャー
磁力を操作し、金属を自在に動かす能力を持つ、通称「磁界王」。「ミュータントの解放」というプロフェッサーの理想に共感し、親友となるが、方向性の違いから反目。X-MENの宿敵として何度も衝突する。プロフェッサーが去ったあとの学園に、突如その姿を現す。複数の実写映画に登場。
○ナイトクローラー/カート・ワグナー
瞬間移動能力を持つ、青い肌のミュータント。敬虔なキリスト教徒で、悩めるX-MENの良き相談相手でもある。複数の実写映画に登場。
○ケーブル
ビショップと同じく、未来からやってきたミュータント。銃器の扱いに長ける。実写映画では『デッドプール2』に登場。
○センチネル
ミュータントを脅威と考える人類の科学者ボリバー・トラスクが開発した、ミュータントの殺害を目的とするロボット。様々なバリエーションが存在する。複数の実写映画に登場したが、特に『フューチャー&パスト』にて詳細が描かれた。
ミュータントの科学者で、遺伝子研究に傾倒している。人間やミュータントのクローンを作り出すことが可能。究極のミュータントを作り出すことに執念を燃やし、X-MENと敵対している。
こんなもんでしょうか。他にも多数のミュータントやヒーロー、ヴィランが登場しますし、小ネタ的なものまで拾い始めると収拾がつかないので、この程度で。確実に言えるのは、とりあえず上記のメンバーを把握しておけば問題なく楽しめるということと、古今東西のマーベル関連知識を持っていれば、さらにめちゃくちゃ楽しめるということ。視聴中に誰が誰だかわからなくなったら、ぜひ当記事を読み返していただきたい。あるいは、キャラクターのことをもっと深く知りたいと思ったり、当記事に記載されていないキャラクターに興味を持った場合には、ご自身で調べてみるのがよいでしょう。気になったキャラクターについて調べることが、アメコミ沼への第一歩です。
楽しみ方のヒント
続いて、本作を楽しむ上でのコツやヒントを紹介していきます。これは、僕が"観てて楽しかった部分"でもありますので、なんなら先ほど掲載した感想ブログを読んでもらうのが手っ取り早いのですが(アニメ視聴前に読んでもあんまり支障ないよう書いてますので)、ここではより簡潔に、いくつかのポイントに絞って記載しておきます。
①単純にアニメとして完成度が高い
これに尽きますよね。躍動感あふれるアクション。キャラクターひとりひとりの内面を深く掘り下げる、素晴らしい脚本。その情感を引き立てる見事な演出。伏線とその回収があまりに美しい作劇。その全てが完璧に機能していて、非の打ち所がありません。「マーベル史上最高のプロジェクトの一つ」たる所以です。
特に演出は傑出しています。僕が好きなのは、ジーン・グレイのテレパスを介して映像化される、彼女の心象風景。それは、今敏監督作品(『パプリカ』や『千年女優』など)を彷彿とさせるような、奇妙で異様な、驚くべき映像世界として表現されていて、観る者を圧倒します。あと、ザ・ニュートン・ブラザーズによる、往年のメインテーマ・アレンジを始めとする、音楽も素晴らしい。最高のアニメです。
②現代的で政治的なテーマ性
先述したように、X-MENの歴史は差別との戦いの歴史です。その最前線に位置する本作では、現代を生きる我々にとって(残念ながら)極めて身近に存在する、差別や暴力の構造が描かれています。同時にそれは、普遍的なものでもあるのですが(ゆえにX-MENの戦いは終わらないし、時代の声に応じて何度でも復活する)。
彼らの前に立ちはだかるのは、差別主義者。あるいは人類(マジョリティ)による無自覚の差別。そしてそんな差別と憎悪、暴力に曝され、自ら対立と分断を望むようになってしまったミュータント(マイノリティ)当事者。さながら無間地獄の様相を呈する、苦しみの螺旋の中で、ヒーローたちも疲弊していく。やがてその歪みが、最悪の暴力の形をとって、大地に血の雨を降らす。
現代を生きる我々にとって無縁ではいられない差別と、その先にある虐殺という最悪の現実。この現代的で政治的なテーマを描かずして、なにがX-MENでしょうか。25年の時を経て、まさに今、X-MENが復活した理由がここにあるように思えてなりません。
③人間味あふれる魅力的なキャラクター
こういう話をすると、思想ばかりでつまらないアニメなんじゃないか(僕は思想こそいちばん面白い部分だと思いますし、差別反対や虐殺反対は思想ではないのでは?と思うのですが)と危惧する人もいるでしょうが、そんなことはありません。先に述べたように、単純にアニメとしての出来が良いため、話の内容についていくことさえできれば、まずつまらないということはないでしょう。
特に、キャラクターひとりひとりの心情描写はすごく丁寧なので、脚本の都合で動かされている感じがしません。むしろ、すごく生々しいというか、差別に立ち向かう理想の存在として、ヒーローという偶像を背負って戦う彼らが、実際には恋愛や家族など、一人の人間としての苦悩や葛藤を抱えていることが描かれていて、リアリティがあります。そんな、人間味あふれる(リアリティのある)彼らが、現代的で政治的な(リアリティのある)差別と暴力に直面するからこそ、観ている我々はそれを、今現実に起きていることと地続きで捉えることができるし、翻って、今まさに差別と暴力に苦しめられている現実の当事者たちにも、ひとりひとりの人生があるのだという、当然の事実に思いを馳せることができるのです。上辺だけの政治理論や党派性(イデオロギー)の話をしているわけではない、ということ。今を生きている(そして死に直面している)人間の話をしているのです。
そんなキャラクター同士の関係性が、ドラマの軸を担っています。スコット、ジーン、ローガンの三角関係(子供がいるんですよ?)や、ガンビット、ローグ、マグニートーの三角関係(三角関係が多い)など、目を離せない複雑な人間模様が描かれているのですが、その中でもやはり、代表的なものはプロフェッサーXとマグニートーの友情と対立でしょうか。彼ら二人の関係性は、遺伝子の二重螺旋構造のように、X-MENサーガの全体を貫くメインテーマとなっています(※1)。それは共存か戦争か、希望か絶望か、という根源的な問いを内包するものであり、まさにX-MENのテーマそのもの。そんな二人の関係性が、最新作97にて、どのように描かれるのか……。ぜひ最後まで見届けていただきたい。
(※1)『呪術廻戦』の五条悟と夏油傑の関係性に、だいぶ近いと思っています。というか『呪術』自体、X-MENに近い。特殊能力を持った子供たちの学校。教師が最強の能力者で、その旧友は能力者が非能力者を支配する世界の実現を目指していて、対立構造にある。虎杖悠仁の好みのタイプがジェニファー・ローレンス(実写X-MENにてミスティーク役で出演)ですし、たぶん作者はX-MENのこと好きですよね。
まとめ
現代的で政治的で、リアリティがあって、人間味のあるキャラクターたちがいて、映像も音楽も脚本も演出も、全部イイ!今世紀最高のアニメの一つであり、マーベル史上最高傑作であると、僕は確信しています。皆さんにもそう思ってもらう必要はないのですが、でもこんなに面白いのだから、どうか一人でも多くの人に観てもらいたいし、楽しんでもらいたい。そんな思いから、この記事は生まれました。このアニメには、人を救う力がある。あるいは、誰かを救うための勇気を与えてくれる。『X-MEN '97』との出会いを経て、より豊かな人生を送れるようになる人が、一人でもいてくれたら。この記事が、その手助けになることができたら。それ以上の喜びはありません。
いや、シーズン1の脚本と製作総指揮を担当して、なぜかマーベル・スタジオから解雇されたボー・デマーヨが復帰してくれたら、"それ以上の喜び"かもしれない。ほんと、なんでクビにしたんですかね、マーベルは……(現在、理由は明かされていない)。
あと、今からでも遅くないので日本語吹き替えを用意してくれたら、観る人も増えると思うんだけど。